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「へへっ、届く……まで、ひみ、つ」
シ―ッと口元で人差し指を立てた。
「なんだよっ、教えてくれたっていいじゃんか!」
「だって、楽し、みは、あとで、とって……おく、ほうが、ワク、ワクする、で、しょ?」
頬を膨らます拓望に微笑んだ。
「まあ、確かにそうかも。じゃあ、後で見せ合いっこしよーぜ」
「うん、いい、よ!」
二人して笑い合った。
拓望は施設で一番、仲のいい友人だ。優しく明るい性格の彼は、怜のことをよく気遣う。使い難い左手をサポートしてくれたり、聞き取り難い言葉も全部拾ってくれる。
そんな拓望の生い立ちも複雑だ。両親は離婚したと聞いている。施設に入る前は父親と一緒に暮らしていたらしいが、一昨年、事故でなくなった。実母とは既に疎遠で、もともと拓望を疎ましく思っていたという。祖父母や近い親戚もいなかったことから、ここに来たそうだ。
「そういえばさ、よく怜くんに会いにくるお兄さんだけど……」
ここで拓望が話題を変えてきた。一司のことだろう。
「一司……さんが、どう、か、した?」
「この前、一緒にサッカーにしてくれたじゃん? あの人上手いよな。怜くんはいいよな。あんな格好いい人がお父さんみたいでさ」
嫉妬ではない。純粋に羨ましいのだろう。拓望の瞳はキラキラと輝いていた。
「……えっ、そうか、な?」
(お父さんだって……)
こそばゆくなって怜は頬を染めた。そして手紙の内容を思い返した。一司のようなパパが欲しいと率直な願いを書いたが……。
(迷惑かけたかな……)
一司は困っただろう。どう考えても無理な「ねがいごと」だ。今更になって罪悪感が駆けたのか、怜は視線と落として、膝の上に置いてあった両手を握った。反応が鈍い左手は少し遅れて拳を作った。
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