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「やった! 行こう、怜くん!」
拓望が怜の右手を取った。小さい子から順番にツリーの前に整列する。
(リクエストしたのはボールだけど……)
もしかして参考書とか辞書じゃないだろうか。心配を感じた怜はそわそわと身体を揺らした。一司にはサッカーに励むのもいいが、勉強もしっかり頑張れと言われているからだ。
何度か、一司から学校の宿題を教えてもらったことがある。分かりやすかった。頭も賢くて男前。怜の中の一司は、出会った時以上に格好よく、輝く存在となっていた。
(会いたくなってきたな……)
寂しげに列の中で俯いた。サンタとトナカイの二人は、田島の指示を受けながらプレゼントを渡していく。前に並ぶ拓望の順番がやってきた。もうすぐだ。怜は顔を上げて拓望とサンタのやり取りを見つめた。
「君は、これだな……はいどうぞ、メリークリスマス」
「ありがとう、メリークリスマース!」
プレゼントを受け取った拓望は先に席へと戻っていった。次だ。少し緊張した面持ちで怜は腰をかがめるサンタと目線を合わせた。
「はいどうぞ、メリークリスマス」
「っ……!」
ラッピングされた箱を受け取りながら怜は息を呑んだ。今の今まで気付かなかったと、大きく見開いた瞳でサンタを凝視した。
白い髭が顔の半分を隠しているため、ハッキリとは見えないが、向けられた眼差しが答えだった。いつも怜を優しく見守る瞳だ。間違えるはずがない。声もそうだ。わざとガラガラにしても、よく聞けばトーンは同じだ。怜が今、一番会いたい人が目の前にいた。
「かっ、一司、さ……」
「――シッ!」
名前を呼びかけたところでサンタが人差し指を口にあてた。
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