番外編・ねがいごと

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「あー疲れた。しかもこの服、すげー動きにくいから、たまんねーぜ」  プレイルームを出て、薄暗い廊下をある程度進んだところで一司は付け髭をはがした。 「何、言ってんのよ、かずちゃん。あたしの方が動きにくいわよ! ああ、息苦しかった」  神谷もトナカイの被り物を取った。 「おい、せっかく似合ってんだから、ずっと被っとけよ」  茶化して鼻で笑うと、神谷も負けじと言い返してきた。 「かずちゃんも、その白髭すごく似合ってたわよ。一司お爺ちゃんって呼んであげる~!」 「うるせぇ。熊トナカイ!」 「なにそれ、化け物じゃない」 「ははっ、よくわかってるじゃねーか」  二人して笑い合いながら職員用のロッカー室へと目指す。この後、着替えを済ませてから一司は局に、神谷は店へと戻る。 「神谷、ありがとな。しかも店が忙しい時期に、俺の我儘に付き合わせて、悪かった」  そう。今日のサプライズの為に神谷には数時間だけ店を抜けてきてもらったのだ。  詫びる一司の肩に腕が回った。 「全然、問題ないわよ。子供たちも喜んでたし、可愛すぎで癒されちゃった。怜くんの顔も見れたし、大満足よ」 「ああ、取り敢えず大成功だな」  ニッと歯を見せて笑った。どうして二人が変装して施設に訪れたのか。話は三日前に遡る。  一司が「虐待防止強化月間」の件でセンターに訪れた時の事だった。せっかくだから牧野に年末の挨拶をしていこうと事務所に顔を出したのだ。  しかし牧野は同僚でもある女性福祉司たちと、何やら深刻な面持ちで話し込んでいた。取り込み中のようだ。邪魔しては悪い。気を使った一司が扉の前で引き返そうとしたが……。 「あ、大槻さん!」  牧野が気付いたのだ。彼女はすぐに手招きをして一司を呼び寄せた。話を聞いて欲しいようだ。
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