番外編・ねがいごと

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 聞くところによると、三日後の二十五日。怜が入所する施設でクリスマス会が催されるのだとか。しかし、問題が発生した。サンタとトナカイの役を頼まれていたセンターの男性福祉司の二人が、昨日から相次いでインフルエンザにかかったというのだ。  そこで牧野が一役買って、サンタの役目を引き受けようとしたが、やはりサンタは男性が適任ではと、施設から返答があったところで一司が訪れたのだ。  困ったわねと、牧野を含める福祉司面々が揃って溜息を漏らした時だ。 「そうだわ……ねえ、大槻さん!」  何か閃いたのか、牧野が一司の手を両手で取った。 「な、なんですか……?」  嫌な予感がする。視線を逃がすタイミングもなく彼女は言った。 「大槻さんに、サンタの格好をしてクリスマス会で子供達にプレゼントを渡して欲しい!」と――。  最初は断った。サンタの格好なんて嫌だった。コスプレと変わらないからだ。  だが牧野は引かなかった。最終的にはその場にいた全員に頭を下げられてしまった。とはいえ一司の一存では決められない。  二十五日は平日だ。年末が迫る繁忙期。そう簡単に仕事は抜け出せない。答えを渋っていると牧野はその場で一ノ瀬に電話を入れて許可を求めた。電話の向こうにる上司の決断は早かった。『是非、大槻を使ってください』と。  あとはトナカイ役だ。出来れば大きな人がいいらしい。一司はここで思い立った。施設には怜もいる。神谷も会いたがっていた。それならと、ダメもとで友人に頼んでもいいかと尋ねると、牧野は二つ返事で了承した。
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