番外編・ねがいごと

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「怜くん、あたしたちに気付いてたみたいね」 「そうだな……」  サンタの正体が一司だと分かった瞬間、怜の顔は驚きに満ちていた。ゆっくり会えなかったことは残念だが、少しでも元気な姿が見られてよかったと、口元を緩めた時だ。背後から走る足音が近付いてきた。床を叩く音が軽い。誰だと、振り返ると同時に廊下に声が反響した。 「か、一司、さん……っ、神谷、さ……んっ‼」  怜だった。小さな彼は息せき切って駆けてきた。 「怜……おっと!」  距離が縮まったかと思いきや、怜は一司の身体へと飛び込んだ。 「お前、クリスマス会の途中だろ? 抜けだしたら怒られるぞ」  優しく抱き止めながら言った。 「だって、まさか……一司、さんと、神谷さんが……来て、くれる、なんて、思ってなか、ったから!」  息を大きく切らしながら、怜は一生懸命、話そうとする。 「怜、いったん落ち着け」  しゃがみ込んで怜の背を撫でた。心臓への負担はなるべく控えるよう、医者から言われているからだ。後遺症の影響で不安を残す、癲癇(てんかん)の症状が、いつ起こるかわからないからだ。運動も制限がある。長時間、激しい動きはしない方がいいとされている。 「ゆっくり息を整えろ……そうだ」  呼吸を促した。 「っ、うん……で、でも俺、嬉し、くって……!」  両手を胸に当てながら、怜は言われた通りに呼吸を繰り返した。しかし、伝えたい想いは止まらないようだ。 「それに……っ、手紙、も読んで……俺の、我儘、なのに……っ、パパなんて、迷惑、だったのに……!」  興奮が治まらない。一司は昂る気持ちを抑えようと、怜の身体をそっと抱き締めた。 「我儘なんかじゃねぇよ。怜の思ったことは全部、俺と神谷には吐き出してくれよ。俺達は離れてても、ちゃんと家族だ……」 「っう……ううっ、ぁ」  腕の中から、引き攣ったような嗚咽が聞こえた。
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