番外編・ねがいごと

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*** 「素敵なクリスマスになったわね……怜くんの気持ちも嬉しかった」  施設の帰り道。イルミネーションが彩られた街路樹の広い歩道で神谷が囁いた。一司は微笑みながら頷いて、道行く人へと視線を流した。さすがクリスマス当日だ。通りは多くカップルで埋め尽くされていた。  冬空を見上げながら神谷は続ける。 「それにしても、一年って早いわよね。今日が終わったら年末まであっという間だし、気が付いたら新年なのよね。なんだか忙しないけど、みんな、そうやって歳を重ねていくのよねぇ」 「何だそれ、年寄みたいなこと言うなよ」  ははっと笑って、冷えた両手をコートのポケットに突っ込んだ。 「でもね……」  歩みを止めた神谷が、一司の腕に手を搦めてきた。 「これから先の人生を、かずちゃんと一緒に歩んでいけると思うと、凄く楽しみなの」 「神谷……」  ストレートな言葉に胸が鳴った。一司は思わず俯いて火照る頬を隠した。 「かずちゃん……これからもずっと一緒にいてね。メリークリスマス」  そう言って神谷は上着のポケットからラッピングされた小さな箱を一司へと差し出した。 「え……?」  瞳を瞬いた。これはどう見てもクリスマスプレゼントだ。 (しまった……)  仕事に追われて用意するのを忘れていた。それ以前に、プレゼントするという意識もなかった。 「いいのよ。あたしがプレゼントしたいだけ。気にしないで」  何も言わなくてもわかったのだろう。神谷は小箱を手渡してきた。 「ありがとう……俺も、すぐに用意するよ」  受け取った包みには、神谷の店のブランドロゴがプリントされていた。 「それね、かずちゃんに絶対に似合うと思って選んだの」  自信満々に神谷は腰に両手をあてた。 「へえ、開けていいか?」  期待した。大きさからしてアクセサリー系だろうか。
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