番外編・ねがいごと

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(ずっと、一緒にいてね……か)  神谷が口にした言葉が胸を揺さ振った。   交際して一年以上経った。しかし、まだ二人は一緒に暮らしていない。  この一年。一司は両親の信頼を得ようと我武者羅に頑張ってきた。それが認められたのか、先月、父からやっと許しを得た。『恋人がいるのなら、そろそろ二度目の人生を考えてもいい』と。それは再婚へと後押しとも取れる科白だった。一度は落ちぶれた息子の成長を父はちゃんと見てくれていたのだ。しかし、一司はまだ踏み出せていない。どうしてもやり抜きたい事があった。 「……神谷、俺、お前に言いたい事がある」 「どうしたの? 急に改まっちゃって……」  真剣な面持ちの一司に、身構えたのだろう。神谷の表情が引き締まった。 「……俺、児童福祉司の資格を取ろうと思ってる」 「えっ、かずちゃんが?」  唐突な宣言に、神谷は驚きを隠せないようだ。 「そうだ。何だよ……意外だって言いたいのかよ?」 「意外と言うより……本気なの?」  尤もな反応だった。何故なら、以前の一司は福祉が大嫌いだと豪語していたからだ。 「……本気だ」  力強く頷いた。 「もしかして、怜くんの影響が大きい?」 「確かにそれもあるけど……俺、今の仕事、結構好きなんだよな……最初は嫌でしょうがなかったけどさ」  ははっと笑った。局に異動が決まり、悪態ばかりつていた日々を思い返したのだ。何もわかろうともしなかった愚かな自分を。
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