番外編・ねがいごと

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「じゃあ、いずれは福祉司として働きたいと思ってるの?」 「わからねぇ。でも、もっと今の仕事を頑張って、虐待現場に向き合って真剣に関わりたいって思った……」  児童福祉司は公務員だ。  まずは、地方公務員試験に合格しなければならない。局の職員である一司は、そこはクリアとなるが、資格試験がない代わりに児童福祉法で定められている「任用資格要件」を満たす必要がある。  一司の場合、都道府県が指定する講習会の課程を修了すれば、資格を所得出来る。毎年、四月に申し込みがはじまり、書類審査が通れば、六月から受講が始まる。  学習は四学期にわけられる。通信教育が主だが、秋には合同研修もある。その全てを修了し、テストに合格後、晴れて児童福祉司として働けるというわけだ。   「神谷……俺、もっと両親に胸を張って、お前とのことを報告したい。別に資格を道具にするつもりもない。これは俺の心の問題だ……とにかく挑戦してみたいんだ」  決意を秘めた瞳を向けた。 「かずちゃん……」 「だから一緒に住むのは、あと一年半は待ってくれないか」 「一年……半」  神谷の頬がピクリと動いた。それもそうだ。彼は一日でも早く、一緒に住みたいと願っている。それは一司も同じだ。 「我儘だってわかってる……俺だって本当はお前とずっと一緒に……っ!」  声は逞しい胸の中で止まった。神谷が一司の腰を抱き寄せたのだ。真冬の夜空で冷え切った身体は、じんわりと熱をもった。
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