少年との出会い

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 会議が進むにつれて、一司は局とセンターの温度差、状況把握の相違に、初めて気が付いた。  虐待の現状は深刻だ。  一刻も早い保護を必要とする児童数の確認の為、現場力強化の必要性が議題として上がっていた。  しかし、児童福祉司を含め、協力員の人員不足は顕著だ。人材確保のためには都に動いてもらうしかない。人を助けるには人が要る。それなのに上層部はなかなか動いてくれないと、福祉司たちが何度も溜息を漏らしていた。  重い内容だ。田辺の不遜な態度は、そういった不満の表れだろう。 (なるほどね……大変だな、現場ってのは)  一司はどこか他人事のように聞いていた。そして冷静な視点で考えていた。  いくらボヤいても、出来ないこともある。人が動くイコール人件費がかかるのだ。その確保の見通しがなければ、どうにもならない。何をするにも金が必要なのだ。もちろん税金という都民の血税が出所だ。  それを動かすのも政治の力というわけだが、本気になって庶民のために動く議員は少ない。倉林もそうだ。児童虐待についてなど触れてもこなかった。 (結局は権力でなんとでもなる話なんだけどな……)  酷な現実だ。会議が始まってもうすぐ二時間が経とうとしていた。いい加減、終わって欲しい。欠伸を噛み殺したところで、前方のモニターが稼働し、画像が映し出された。 虐待を受けた子供たちの写真だった。小さな身体は傷付き、中にはガリガリに痩せ細った少女の姿もあった。 (……キツイな)  局に異動した頃、一ノ瀬が見せてきた資料を思い出した。
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