少年との出会い

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 あの時は精神的に参っていたこともあり、トイレに駆け込み嘔吐したが今回は胃に込み上げるものはなかった。とはいえ気分は最悪だ。我が子に手を挙げる大人は確実にいるのだ。今、この瞬間にも、暴力に怯えている子供もいる。 (人のこと言えねーけどな……)  自分もかつては暴力を振るってきた人間だ。子供に同情する権利も、親を責める資格もない。一司はモニターから瞳を逸らした。  ここで田辺が語り出した。 「私たちが把握している虐待数はまだまだ氷山の一角です。最近は地域コミュニティの低下で、近所からの通報がなかなか上がらない。勇気を出して声を上げたところで、もし虐待じゃなかったらと……そういった声も聞かれます。そこに我々が声を大にして、少しでも異常だと感じたら通報して下さいと訴える活動をしていきたいと考えておりますが……局としての考えを一ノ瀬さんもお願いできますか?」    意見を求められた一ノ瀬が力強く頷いた。 「そうですね、確かに仰る通りです。地域と我々行政が連携しなくてはならない事態だと認識しております。地域への呼び掛け強化は戸別のリーフレットの配布を局としても現在提案しているところです」 「ほう、そんな予算がおありで?」  田辺の眉尻がピクリと動いた。 「今、掛けあっているところです。追って報告させて頂きます。あと、その担当を含めて、窓口はこちらの大槻にと思っております。まだ新人で至らない点もあるかと思いますが、よろしくお願い致します」 「……は? 担当なんて一言も聞いてねーぞ!」  初耳だ。そんな面倒な仕事を任せてくれるなと感情のままに声を上げた。すると、その場にいた全員から凍てつくような視線が送られた。
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