少年との出会い

7/12
前へ
/267ページ
次へ
 しまったと、一司は口元を手で覆った。つい反応してしまった。隣から一ノ瀬の怒りのオーラを感じた。説教コース確定だ。少しでも彼女の機嫌を取り戻さなければならない。 「っ……若輩者ですが、何卒よろしくお願い致します! 精一杯頑張って参ります!」  机に額がくっつくまで頭を下げた。 (くそ……大体、俺は子供なんて苦手なんだよ)  虐待は確かに罪だ。いくら一司でも、我が子に手を挙げたことはない。 (あいつら……何してんだろ)  離婚してから一度も会っていない。特に会いたいとも思わなかったが、ふいに智史と陽菜の顔が脳裏に過った。  子育ては全て、元妻、万里子に任せてきた。とにかく小さな子供は扱いにくい。  すぐ泣いて癇癪を起しては、家中を散らかす。ケタケタと笑っていたと思いきや、急に物を放りなげて怒り出す。もはや怪獣だ。  取りあえず、お菓子さえ与えれば黙るということだけ心得ていたが、一司にとってストレスでしかなった。そもそも、どう遊んでいいのかわからない。  気が付くと二人の子供とは距離が出来ていた。それでも世間体を気にして、表面上はいい父親を演じてきた。万里子へ暴力を振るう前までは。  しかも当てつけのように、子供たちは弟の一哉によく懐いていた。  智史が以前、こんな事を小さく漏らしていた。 『一哉おじちゃんがパパだったら良かったのになあ……』と。  一司が家にいないと思ったのだろう。リビングから聞こえてきたのだ。陽菜も兄の言葉にうんうんと頷いていた。万里子もいたはずだ。妻の反応を盗み見ようかと扉に手をかけたが、やめた。そのまま玄関へと方向転換した。一年ほど前の話だ。 (……まったく、子供なんて簡単に作るもんじゃねぇな)  煩わしい事を思い出してしまったと、一司は手元の資料を捲った。どこを見ても虐待の文字だ。 (自分の子を虐待するなら、作るなよ……)  喉まで出かかったぼやきを飲み込んだ。
/267ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1534人が本棚に入れています
本棚に追加