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神谷の隣に並んで、広がる情景を眺める。
人工的なコンクリートばかりが建ち並ぶ街並み。それを浄化するように、朝焼けは東の空を黄金色へと染めていく。
「ビルばかりで狭苦しいけど、ここから見える空も悪くないわね」
「そうだな……」
頷いて、微笑む神谷の横顔を見つめて一司は思い返した。数年前、まだ自分の感情に気付いていなかったある朝。神谷のマンションを出て、一人街中を歩いていた日の事を。
あの日見た朝焼けも、今日と同じくらいに眩しくて綺麗だった。思わず神谷みだいだと、心で呟いていた事を鮮明に思い出した。
「……やっぱり、お前は眩しくて、綺麗だ」
気付いた時には、無意識に囁いていた。
「何か言った?」
笑顔を向けられた。一司は小さく首を振ってから、神谷に身体に寄り添った。大きな腕が腰に回り、密着が深まった。
「そうだわ……一緒に来て欲しいところがあるの。冬休みになると思うけど……」
「一緒に?」
「うん……お母さんのお墓参り。故郷に行きたいの。かずちゃんとの事を報告したいから……」
「……俺も行って、いいのかよ?」
躊躇いがちに尋ねた。
「いいに決まってるじゃない。だって、かずちゃんは家族だもの。それにお母さんには、あたしが幸せになった姿を見てもらいたいの。もう、死んじゃってるけど、かずちゃんを紹介したい……あたしの大好きな人だってね」
「……わかった、一緒に……行こう」
急激に胸が熱くなった。
滲む涙とともに込み上げたきのは、母親の遺言を忠実に守り生きる、神谷の隣に立つ事を、母親は許してくれるだろうか。それ故の涙だった。
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