少年との出会い

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*** 「頼むわよ、大槻さん。センターの人たちはいつもピリピリしてるから、言葉遣いだけには気をつけてちょうだい!」  協議を終え会議室を出た瞬間、案の定、一ノ瀬からのお叱りを受けた。 「すみません。でも田辺も大概っすよね。あれ、喧嘩売ってるとしか思えないですよ」  一司は反省を見せつつも、田辺のほうに話を逸らした。 「田辺副所長って呼びなさい。そうね……現場から見たら私たちの仕事に文句も一つは言いたくなるでしょう。予算や色々な兼ね合いで動く都や局と、子供の命に関わる現場を預かる彼等とはスピードも違う。どうしてもズレは生じてしまうわ……」  隣を歩く一ノ瀬は、どうにもならない現状を憂いてか深い溜息を吐いた。 「……ふーん、難しいものなんですね」  当たり障りなく返した。  出来る事は限られている。仕事はマニュアル通りに進めればいい。一司はどこまでも事務的に捉えていた。 「そうよ。でも想いは一緒。一人でも多くの子供を救いたい。そこだけは絶対にブレてはいけないわ……だから」  一ノ瀬が足を止めた。合わせて一司も立ち止まると、彼女は強い口調を向けた。 「今回、大槻さんが任されたことは地味な仕事かもしれない。でも、たった一枚の紙で助かる命もあるかもしれない。そうでしょう?」 「……まあ、そうかもしれませんね」  まるで価値観を否定された気分だ。居心地が悪い。視線を逃がす一司に一ノ瀬は苦笑を浮かべた。 「大槻さんって性格は褒められたものじゃないけど、仕事振りは真面目だものね。今回のこと、頼むわね」 「……わかりました」 (余計なひと言が多いんだよ……)  心の中でお決まりの悪態をついた時だ。 「――こらっ、(れい)くん! 止まりなさいっ!」  突然、廊下中に大きな声が飛び、床を蹴るような足音が響いた。一体何事かと前を向いた一司だったが……。 「――ぐえっ!!」  腹部から重い衝撃に呻いた。何かが突っ込んできたのだ。咄嗟に足を踏ん張るが、鳩尾に入ってしまったようだ。一司はその場に蹲った。
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