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「ぐっ……い、いてぇぇ……」
尋常じゃない痛さだ。呼吸も苦しい。激痛に耐えながら腹を抑えた。息を整えたところで顔を上げると、同じ目線の高さに大きく円らな瞳があった。純真無垢で幼気な瞳だ。
そこで分かったのは、一司にぶつかったのは、小さな男の子だったということだ。
(このガキめ……)
一司は目の前の子供を睨みつけながら、ゆらりと立ち上がった。何歳ぐらいだろう。智史とそう変わらない気がする。観察するように眺めていると、少年が口を開いた。
「おいオッサン、何じろじろ見てんだよ。気持ち悪いんだよ」
「――は?」
言葉の悪さに一司の目は点となった。
「どんくせぇオッサンだな。子供の突進ぐらいサッと避けろよ!」
どうやらこの少年はぶつかってきたことを、少しも悪いとは思っていないようだ。その生意気態度に一司の怒りが発動した。
「おいガキ……まず言うことがあるだろうが」
低い声を放ったが、少年は全く動じない。ツンとそっぽを向かれてしまった。
(こいつ……っ!)
今すぐ引き摺り回してやろうか。腹立たしさが込み上げてきたところで、新たな足音が近付いてきた。
「怜くん! 勝手な行動をしないの!」
センターの職員だろうか。エプロンを身に着けた中年女性が息を切らしてやってきた。
(怜……こいつの名前か?)
再び少年へと視線を戻した。反省していないのだろう。不貞腐れた表情で一司を見つめ返してきた。だから子供は嫌いなんだ。一司は怜と呼ばれた少年を更に強く睨んだ。
「すみません……この子が急に走り出してしまって。あら、一ノ瀬さんじゃない!」
ここで駆けつけてきた職員が一ノ瀬の存在に気付き、表情を明るくした。
「誰かと思ったら、牧野さんだったのね! お久し振りね」
どうやら顔見知りらしい。二人はそのまま立話をはじめた。
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