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「牧野さん。この子は、もしかして……」
一ノ瀬が複雑な表情を見せた。牧野は困ったように微笑むと事情を説明した。
「ええ、昨日から一時的に預かっていたんだけど、保護が解けてもうすぐお母さんが迎えにくる予定なのよ。そしたら急に走り出してしまって……」
「それって、帰宅許可がすぐに下りたってことですよね? 調査はされたのですか? そもそもどんな流れで保護になったのです?」
訝しんだのだろう。一ノ瀬が率直な疑問を矢継ぎ早に飛ばした。
「ええ、別の職員が家庭訪問をしました。通報は泣き声がするからと、ご近所からあったそうです。外傷もないし、お母さんも手を挙げたことを反省しているようですし……躾の一環だと強く主張してます」
要するに、保護されたもののセンターとしては問題なかったと判断したようだ。
(へぇ……母親がねぇ)
二人の会話を耳に入れながら、一司は怜の様子を窺った。
「オッサン、さっきから何だよ。なんか文句あるのかよ!?」
視線を鬱陶しがった怜が吠えた。
「…………」
最悪最高に可愛くない。
どうやら躾の話は本当のようだ。とにかく口が悪い。こんなにも反抗的な子供なら、手を挙げてしまう気持ちもわかる。そう解釈した一司は柔らかい笑みを浮かべて怜の頭をポンポンと優しく撫でた。
「ははっ、オッサンか。うんうん、そうだな。君からしたらそうかもしれないけど……」
そこまで言ってから眼光を鋭くした。
「せめて『おじさん』だろうが。言葉遣いに、気・を・つ・け・ろ……!」
そして、凄みを利かせた声で態度の悪さを戒めた。その場にいた、全員が静まり返った次の瞬間……。
「っうう、うわぁぁぁぁあん!!」
怜は火が点いたように泣き出した。その泣き声は大きく、センター中に響き渡るほどだった。
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