※撫でられた髪

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 センター初訪問から二日後。  残業を終えた一司は、ある場所へと向かうため都会の喧騒の中を突き進んだ。  週末の夜九時。ネオンの光が煌めく繁華街はとにかく人が多かった。  居酒屋店やカラオケ店周辺には複数の若い男女が集って騒いでいた。サラリーマンの姿も多い。飲み会だったのだろう。既に出来上がった様子で、街をうろついていた。 (底辺が。どいつもこいつもバカ騒ぎしやがって……)  どうせ悩みなんてないんだろう。道行く人を横目にしたあと、一司は夜空を見上げた。星一つ見えない汚い空が広がっていた。  まるで今の自分の心のようだ。  離婚して早くも九カ月。この間、色々あったと一司は今日までのことを思い返す。局への異動も大きかったが、何より意外だったのは神谷との関係だ。 (……今日はどうしてんだろ)  会う約束はしていない。珍しいことに神谷からの連絡もなかった。いつもなら昼休憩の時間を狙ったかのように卑猥なトークを連投してくるはずなのに、端末は一切震えなかった。  昨日は特に酷かった。 『今日の下着は何色のどんなタイプ?』からはじまり、『早くかずちゃんの甘いお汁が飲みたい』『次はかずちゃんのイった顔を写真で撮らせてね』と、とにかく誰にも見せられないような内容が立て続けに送られてきた。  もちろん全て既読無視だ。いちいち返していられない。
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