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来店を重ねるうちに彼とは自然に打ち解け、深い話をするようになった。一司の性格もさることながら、離婚に至るまでの経緯も知っている。とはいえプライベートで会う仲ではない。連絡先も知らない。ボーダーラインを引きつつも、愚痴にはちゃんと耳を澄ましてくれる。そんなマスターのスタイルは一司にとっては心地よかった。
「取りあえずダイキリ作ってくれ」
「畏まりました」
マスターが手際よくアルコールの準備を始めるなか、一司は店内へと視線を巡らせた。客入りは上々だが耳障りな会話は聞こえてこない。皆が静かに大人の時間を楽しんでいるようだった。
しっとりとした空間に黒を基調とした洗練されたデザイン。流れるクラッシクジャズも心地いい。一司はバーならではの癒しを心で味わった。
「……お待たせ致しました」
ダイキリがカウンターに置かれた。早速、一口運んだ。
(うん……いいな)
やはり美味い。密かに唸った。どうやらマスターは一目で一司の気分を感じ取ったのか、サッパリとした味わいに仕上げていた。
センターに訪問してからというものの、仕事に対して苛立ちが募っていた。先日の怜の件も思い出すだけで、腸が煮えくり返る。ストレスは常にマックスだ。
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