※撫でられた髪

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「大槻さんがイライラしている時は、眉間に深い皺が寄っていますからね」  わかったような口振りに一司はムッとした。 「どうせ俺はわかりやすいよ。あいつと同じ事を言いやがって」 「……あいつ、とは?」 「ほら、あいつだよ。見た目は厳ついけど、女言葉を喋るオカマだよ。何回かここにも来てるだろ?」 「神谷さんですか。彼も久しく見ていませんね」  ああ、と頷きながらマスターは磨いたグラスを棚へと戻した。 「仕事が忙しいんだって。あいつ、あれでも有名ブランド店の店長だしな」 「相変わらず、仲がよろしいのですね」 「そんなんじゃねーよ。俺、あいつのこと何も知らねーし」  親密さを否定した。  実際そうだった。身体の触れ合いはあっても、出身地、家族構成、神谷がどんな人生を歩んできたのか一司は何も知らない。    わかっているのはオネエ言葉を話すゲイで、自分より五歳も年下って事だけだ。 (知ってどうなる……)  知らないというより、聞かないようにしてきたのだ。  深入りするのも面倒だ。不全が治れば会う事もない。抜き合う関係と割り切っていた。それに……。 (知りすぎて、後戻りできなくなるのだけはごめんだ……)  変な情が湧いたら厄介だ。一司はダイキリを流し込んだ。 「おかわりされます?」  空になったグラスを下げられた。 「そうだな。強いのがいいな。ロングアイランド・アイスティーで」  アイスティーという名だが紅茶は一切入っていない、ウォッカベースのカクテルだ。そのくせ紅茶の似た味わいを楽しめる。ジンやラム、テキーラなどを合わせてある。飲みやすいが、アルコールの度数は高い。しかしそれを感じさせないのも特徴のひとつだ。 「前みたいに酔っ払わないでくださいよ」 「わかってるって。ほら、早く作れよ」  そんなマスターの忠告を無視して、一司はハイスピードでアルコールを摂取した。
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