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(……なんだこれ?)
微睡みの中の浮遊感に一司は閉じた瞼を小さく震わせた。
しかもあたたかい。上半身から伝わる温度が心にまで沁みてくる。
これは人の体温だ。匂いもする。鼻翼を擽る香りに一司は口元を緩めた。安心感を呼んだのだ。
(落ち着く……)
このままずっと眠っていたい。あたたかさに浸っていたい。しかし、その心地よさは一変する。
「っ……⁉」
身体が大きく落下する感覚に襲われたのだ。直後、背中に柔らかな衝撃が訪れた。
「クソ……何だよ一体っ、んん……っ!」
眠りの妨害に苛立った矢先、声は塞がれた。寝起きでぼやけた視界には神谷の顔が映っていた。
(なんで……こいつが……?)
状況が掴めない。しかもここは神谷の寝室だ。いつの間に来たのか。一司は混乱する頭を必死に動かした。
『idea』に行き、マスターと会話を交わしたところまでは覚えている。だが、内容は朧げだ。
(ダメだ……何にも思い出せねぇ)
フッと全身の力を抜いたところで、息苦しさが襲った。
「んっ……ふっ、んん……っ!」
後頭部を鷲掴みにされて唇に圧迫を受けた。ここでやっと、神谷に口づけられていることに気付いた。
(息がっ……)
出来ない。みっちりと重なった唇は少しの呼吸も許さない。ただでさえ酒が抜けきっていない。あまりの苦しさに一司は背を撓らせて、覆い被さる神谷の背に爪を立てた。それでも口づけは終わらない。
食むような動きとともに、熱い舌が咥内へと滑り込んできた。唾液がじゅるっと厭らしい音を奏でた。柔い粘膜はすぐに蕩け、舌の摩擦を悦んだ。そのまま神谷は一司の口の中を犯しに犯した。
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