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(ダメだ……もう……っ)
息絶えそうだ。一司の腕は大きな背から離れ、マットレスへと沈んだ。ここでやっと唇は解放された。
「はぁっ……うっ、ごほっ!」
空気が気道に流れ込んで激しく咽た。とにかく呼吸が欲しい。
「……かずちゃん、マスターには気を付けろって前に言ったよな?」
胸元を抑え、懸命に酸素を求める一司へと神谷は低い声を落とした。
口調が変わっている。下肢を跨いで見下ろしてくる神谷の表情は明らかに不機嫌だった。いや、これはもう怒っているに近い。
「っ……マスターが何だって……?」
意味がわからない。息を整えながら問うと、神谷が再び覆い被さってきた。
「な、何だよ……お前! だいたい何でこんな事になってんだよ!」
「何でって、かずちゃんに連絡しても繋がらないし、もしかしてって思ってバーに行ったの! そしたら……っ!」
神谷は最後まで言わずに口を閉ざした。
「……そしたら、何だよ?」
「…………」
しかし神谷は顔を顰めたまま、何も言おうとしない。
「おい、答えろよ! 連絡って言ってもな、お前だって今日は何も寄越さなかった……っ!」
次は一司が言葉を詰まらせた。今の発言はまるで……。
(俺が連絡を待ってたみたいじゃねーか!)
「あら? お昼休みにあたしからの連絡がなくて寂しかったのかしら?」
案の定、ニヤリと笑われた。この男のこういうところが本当に嫌になる。
「アホ! 何でそうなるんだよ。お前がいつも下品なトークばっか送るから……っ!」
「もうっ! かずちゃんってば、素直じゃないんだから。あたしに会いたいなら言ってよね!」
否定など全く耳に入っていないのだろう。神谷は一司の身体を思い切り抱き締めた。
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