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「やだ、ごめんね。顔にいっぱいかけちゃった……」
体勢を変えた神谷が顔を覗いてきたが、表情が霞んで見えない。白い淫液が邪魔をしていた。
「て、てめぇ……思い切り顔にかけやがって……ごほっ!」
咽た。開いた口に粘ついた精がドロリと流れてきたのだ。
(最悪だ……)
味覚も嗅覚も、濃厚な雄の香りに支配された。無味無臭に近いといっても独特な匂いは否めない。これを飲めと言われたら出来かねる。しかし、神谷は違う。今まで何度も一司の欲熱を美味しいと言って口にしてきた。
(だめだ……ついていけねぇ……)
変態の極みだ。とはいっても、触れ合いを重ねるたびに神谷の行為に順応している自分がいる。今もそうだ。互いの屹立を舐め合って熱を吐き出したのだ。
(俺……今日で何かが終わったかも……)
絶頂後の疲労の中、一司は新たな扉に困惑していた。
「かずちゃん、大丈夫? お口の中は平気?」
放心状態でいる一司を心配したのだろう。顎が外れそうだったと、文句のひとつでも言いたいとろこだが、吠える気力はない。
「この髪も全部あたしだけが触れていいのよ……だから誰にも許しちゃだめよ」
優しく啄むような口づけが落とされた。
(何だよそれ……)
理解に苦しんだ。転落人生を歩む、こんな自分に誰が触れるというのか。そんな変わり者は、この世でたった一人、神谷竜二だけだ。
(バカじゃねーの……)
心で憎まれ口を叩きながら、一司は瞳を閉じて重なる唇を受け入れた。
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