※撫でられた髪

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 行為後、一司は浴室へと向かった。汗と精でベタついた身体を一刻も早く清めたかった。 (……もう忘れてやる!)  触れ合った名残をシャワーの温水で流した。それでも快感の余韻は消えない。神谷の熱がずっと追いかけて来る。 「クソが……」  考える価値もないとポツリと呟いた。感情をストップするように水栓のレバーをキュッと止めた。  入浴を済ませてリビングに戻ると、神谷が真剣な面持ちでソファに座っていた。手元には仕事の資料があった。そんな彼の隣に一司は無遠慮に腰掛けて、濡れた髪をタオルで拭いた。 「かずちゃん、今夜もお泊りする?」  邪魔をされても神谷は嫌な顔ひとつもせずに尋ねてきた。 「……帰るの面倒だし、そうする」  別に願って泊まるわけじゃない。一司は顔を隠すようにしてタオルをガシガシと動かした。水分を大体拭き取ったところで、神谷が両肩に手を置いてきた。どうやらマッサージをしてくれるようだ。一司はそれに甘えて神谷に背を向けた。 「あら……いつもより凝ってるわね。大丈夫?」 「お前と違って三十過ぎたオッサンだからな。疲れが溜まりやすいんだよ」 「まだ三十二歳でしょう? まだ若いほうじゃない~」  「二十代のお前が言うな。あ、今んとこいいな。もっと強く揉んでくれ」 「ふふっ、了解」  我儘ともいえる要求を神谷は喜んで引き受けた。この懐の深さには正直感心する。一司は心地よい指圧を受けながら、最悪ともいえる彼との出会いを振り返った。
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