溺れそうだ

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 神谷の過去を知ってから一週間が経過した。  その間、一司は一度も彼のところへと訪れなかった。避けているつもりはない。だた、神谷の話を聞いてからというものの、胸の内が騒いで仕方がない。  何度か神谷からの誘いもあったが、仕事を理由に全て断った。実際、忙しいことは事実だった。  センターとのやり取りや、虐待対策のリーフレットの作業に追われていたため、残業続きだったのだ。  とはいえ一週間空けるのは初めてだ。さすがに神谷も怪訝がったのだろう。会えない理由を探るようなトークが、たった今、送られてきたところだ。 『あたし、何か変なことした? それだったら謝るから、かずちゃんに会いたい』と。  そんな言い方は逆に卑怯だ。 (変なことはいつもしてるだろ……)  考えた結果「今夜行く」とだけ返した。欲は溜まっていた。複雑な心境はさておき、一司の身体は神谷の施しを求めていた。 (早く……終わらせねぇと)  このままでは本当に引けなくなる。一司は願った。一日も早く不全が治るようにと。そうでないと溺れそうだ。神谷竜二の身体にも、心にも、のめり込んでいきそうだ。 「……大槻さん!」 「っ……!」  突然の声に一司の意識は現実へと戻された。声の主は隣に座る一ノ瀬だった。 「……そんな大きな声を出さなくても、聞こえてますって」  わざとらしく片耳を塞ぎながら、眉間に皺を刻んだ。 「何回も呼んでたわよ。ぼんやりしていたのは、大槻さんでしょう」 「それは、申し訳ございませんでした」  サラリと流すように言った。 「その棒読み、聞いてて逆に清々しいわ……」  一ノ瀬が呆れた口調で返すと、リーフレットの進行状況を教えてほしいと資料を開いた。 「順調ですよ。デザイン案もいい感じですし」  パソコンを操作して、先日届いたばかりのイメージ画を表示した。一ノ瀬もそれを見て、いいわねと頷いた。
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