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「……不在?」
児童相談センターに到着した一司はまず総合窓口へと顔を出した。すると事務職員の若い女性が田辺の不在を告げたのだ。つい先程、郊外の児童相談所へと向かったとの事だった。
「待ってくれよ。こっちはアポ取って来てんだぞ。何でそんなことになってんだよ」
苛立ちをぶつけた。
「そうは言われましても……緊急でして。夜には戻られるかと……」
女性も困ったように首を傾げた。
「それまで俺に待てって言うのかよ!」
声を荒げると、受付カウンターの向こうから視線を感じた。他の職員が吠える一司を冷ややかに見ていたのだ。
(……どいつもこいつも!)
嫌になる。一司は盛大な溜息を漏らした。
「お待ちになっても構いませんが、お急ぎの用件でしょうか?」
この言い方も腹立たしい。だいたい、報連相というものがあるだろう。
「ここは連絡すら行き届いてねぇのかよ。児童虐待のリーフレットの件だよ!」
「……まぁまぁ、お兄さん。そんなに苛々しないで」
女性へと詰め寄ったところで背後から呼ばれた。穏やかな声色だった。
「……あ?」
誰だと眉を顰めてゆっくりと振り返った。そこには一人の中年女性がいた。見覚えがあった。
(このババアは、確か……)
「牧野さん、お疲れ様です」
記憶を探っていたところで女性職員がホッとした笑顔を見せた。
(そうだ、牧野だ……)
一司の脳裏に十日ほど前の出来事が鮮明に過った。
あの子供、怜を追い掛けてきた女性だ。首から下げられたネームプレートには『児童福祉司・牧野静華』とあった。
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