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「ここが、どこがいい所……なんですか?」
皮肉たっぷりに一司は言い捨てた。
「いい所でしょう。みんな可愛くて、天使みたいで……イライラした気持ちも吹っ飛んじゃうでしょう?」
牧野が笑顔を輝かせた。
(……そんなわけねーだろ)
煽っているのかと、苛立ちはピークに達した。こんな騒がしい場所、何の癒しにもならない。一司は目の前に広がる光景にげんなりとした。
牧野によって連れてこられた場所は、一時保護を受けた子供たちの遊び場だった。
体育館に似た作りとなっていて、十分な広さがあった。その空間を今、何十名もの子供が走り回り、騒ぎ声を上げている。幼児から小学校低学年あたりの年代が大半を占めていた。児童福祉司の姿もある。どうやら遊びの時間のようだ。
(うるせぇ……)
死にそうだ。はしゃぐ子供の声や泣き声が耳障りだった。頭痛すら引き起こしてくる。今すぐ帰りたい。世界をシャットダウンしようと一司は瞳を瞑った。
「信じられないわよね。こんなに可愛い子たちに手を挙げるなんて……」
隣に立つ牧野が悲しさを滲ませた。
「……はぁ」
返事をぼかした。肯定なんて出来るはずがない。暴力を振るう側にいた人間が、ここで首を縦に振れば、それこそ惨めだ。どの面下げて暴力が駄目だと言える。一司は黙した。
「……大槻さん。子供は好き?」
「好きじゃないです」
この問いには、すぐに応えた。
「ふふっ。正直でよろしい。確かに苦手そうだものね」
いちいち勘に障る。これ以上のストレスはいらない。一司は早々にこの場を立ち去ることを決めた。
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