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「もう帰っていいですか?」
「ダメよ。せっかくだから子供たちと遊んであげてよ」
「はあ!?」
ギョッとして目を剥く一司を余所に、牧野は手をパンパンと慣らして号令をかけた。
「はーい、みんな集合! ここにいる、格好いいお兄ちゃんが遊んでくれるみたいよ!」
「ちょ、ちょっと、牧野さん!?」
冗談がきつい。一司は両手を振って後退ったが……。
「えー本当!?」
「お兄ちゃん、じゃあお外の広場いこうよ!」
「わーい!」
時すでに遅しだ。子供たちが一司の周りに群がってきたのだ。やって来たのは主に小学生のメンバーだった。
「俺、そんなつもりは……っ!」
圧倒されつつも否定したが……。
「そうね。じゃあ、お外で遊びましょう!」
牧野が再度呼びかけた。子供たちは歓声を上げて外へと飛び出していった。
「牧野さん、本当に困りますって!」
こればかりは勘弁だ。実の子だった智史と陽菜とも大して遊んできていない。困惑を強める一司に牧野は言った。
「お願い。今日だけもいいから……いつも私たちだけじゃ子供もつまらないみたいなの」
心に訴えかけるような懇願だった。
(クソ……何だって俺が)
断ればいい。けれどそれが出来ない。ノーという言葉は喉に閊えたままだ。戸惑う一司だったが、ここで小さな影に気が付いた。少年のようだ。
(あいつは……確か……)
少し離れた場所に怜がいた。彼は一司と視線が合った途端、外へと走っていった。
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