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「……生意気なガキ」
はっと笑ったところで、牧野がやってきた。
「いい子でしょう。生島怜くんっていうのよ。ちょっとヤンチャだけどね……」
フルネームを初めて知った。一司は遠ざかっていく小さな背中をちらりと見遣った。
「ちょっとって、あれはかなり問題じゃないっすか? まず口の聞き方がなってねぇ」
「それ、大槻さんが言っちゃう?」
アハハと大笑いされて肩を何度も叩かれた。痛い。不快感を示して顔を顰めた一司だったが、ひとつ思い出したことがあった。
「そういえば、今の怜って子……確かすぐに保護解除になってましたよね。また何かあったんですか?」
怜が突進してきた日のことを想起した。虐待の疑いはなしと判断され、母親と一緒に帰ったはずだ。しかし、またセンターの保護下にいる。どういうことだと怪訝を露にした。
「ええ、同じ都営住宅の人からまた通報があって……」
「へぇ……」
二回も通報があるということは只事じゃない。一司の中でシグナルが鳴った。
「前回は外傷もなかったし、お母さんも叱りすぎたって反省していたのと、怜くんも何もされてないって言い切るもんだから、調査結果を踏まえて保護を解除したんだけど……」
牧野の表情が曇った。何かある。一司は迷わずに問いかけた。
「今回は明らかに虐待の痕跡があったって事ですか?」
「あったというか……通報を受けてすぐに怜くん自らここに来たのよ。助けてって……二日前のことよ」
「え?」
子供自らSOSなど、滅多にないパターンだ。大抵は親に怯えて黙ることが多い。どれだけ酷い仕打ちを受けても親の愛情を信じ、求めているからだ。
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