溺れそうだ

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「殺されるかもって……可哀想なくらい震えていたわ」  怜が助けを求めにきた日のことを牧野は詳細に明かした。事態は深刻のようだ。 「でも、外傷はないんですよね?」  決定的な証拠がない。謎だった。 「……大槻さん、怜くん今いくつに見える?」 「いくつって……まさか」  問われて、一ノ瀬と交わした会話が脳裏を過った。  幼児に見える怜だが、はなし言葉から見て、実は小学三年生ぐらいじゃないかと彼女は言っていた。 「見てくれは小さいけど、実は小学生とか言い出すんじゃ……?」  当たったのだろう。牧野は目を瞠ってから怜の状況を語った。 「そうよ。怜くんは今、小学二年生よ……その割に身長も低いし、適正体重にも達してしない」  十分な食事を与えられていないとでも言いたいのだろうか。 「でも、生まれつき小さかったという原因も考えられますよね」  母親のお腹にいる間から小さく、発育が追いつかない低身長症という症状があると局の資料で読んだことがある。  大抵は二歳から三歳までに成長が追いつくとされるが、追いつかない場合は先に述べた症状に当て嵌まるとされる。発症の原因は詳しく解明されておらず、早期に専門医の受診が必要で、成長ホルモンでの治療が可能だ。 「母子手帳で確認したけど、出生時の身長と体重には問題なかったわ」  出生時は適正範囲だったということだ。夕闇がせまるなか、一司は牧野からの見解を静かに待った。 「大槻さん……身体を傷つけることだけが虐待じゃないのよ。育児放棄や育児怠慢……世間ではネグレクトって言われてるけど、充分な衣食住を子供に与えない事も立派な虐待なのよ」 「それは、知っています……」  ネグレクトも近年増加傾向にある。統計を取り始めた十年前から相談件数は二倍に膨れ上がっていた。
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