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「……頭、痛ぇ」
翌日。一司はベッドの中で呻きを上げた。またしても二日酔いに襲われていたのだ。
神谷と会えないとわかった昨日。残業を終えて向かった先は『idea』だった。溜まった欲を発散する勢いで、とにかく飲んだ。
閉店後、ベロベロに酔い潰れた一司を心配したマスターはタクシーを手配した。千鳥足で後部座席に乗り込んだところまでよかったが、すぐに寝てしまった。自宅に到着後、父がドライバーに呼ばれて家から出てきた。泥酔状態の一司を叩き起こした父は呆れながらも肩を貸し、二階の自室へと連れて行ってくれた。そのまま身体はベッドへと放られ、一司は死んだように眠った。
(ああ、やっちまった……)
額に片手をあてて、ゆっくりと身を起こした。視線を落とすとワイシャツとスラックスは皺だらけだった。
「今、何時……?」
カーテンの隙間から光が漏れている。ポケットに入れたままのスマートフォンを取り出すと正午を迎えたところだった。寝すぎどころか、父との座禅もすっぽかしてしまった。ただでさえ迷惑をかけたのだ。きっと今日は懇々と説教されるに違いない。憂鬱な気分に苛まれながらも一司はベッドから足を下ろした。このままずっと寝ていたいが、身体のベタつきと酒臭さが酷い。とにかくシャワーだ。ふらついた足取りで扉を開き、リビング階段を下っていくと……。
「一司、やっと起きたか」
父に声をかけられた。まずは謝ろう。下を向いていた視線を正面に戻した。
「っ……」
条件反射に顔が引き攣った。ここで初めて気が付いたのだ。ソファに父と向かい合わせに座る男の存在に。
「……兄さん」
弟の一哉だっだ。一司の気分は更に下がった。
「……何でお前が来てんだよ」
不快感を隠さずに睨みつけた。一哉も負けじと険しい双眸で見据えてくる。
「ここは俺の実家でもあるから、いつ来ても何も悪くないでしょう?」
しかし態度は一変し、フッと鼻で笑われた。余裕すら感じた。
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