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「……っ」
言葉のかけ方がわからない。一司が選んだのは逃げることだ。踵を返して二階へと向かおうとしたが、それは遮られた。
「パパーっ!」
「うぁーん、会いたかったよー!」
二人は駆け出した途端、一司へと飛び付いてきたのだ。
「なっ……お、おい!」
小さな衝撃を身体で受け止めながら戸惑った。
(会いたかった……だって?)
嘘だろうと、腰に抱き付く二人へと視線を落とす。二人の瞳は潤んでいた。今にも涙が零れそうだった。
「パパ……俺っ、ずっとパパに会いたかったんだよ! それなのに、会ってくれないからっ……!」
智史がとうとう泣きだした。それに合わせて陽菜も泣き声を上げた。
「わ、わたしも会いたかった! やっぱり、わたしたちのパパはパパだけだもん……っ!」
泣き縋る二人に一司の困惑は一層強まった。自分は誰もが認める最低な父親だ。子供たちも大嫌いなはずだ。そう思ってきたからだ。
(なんだよ、これ……)
心が痛い。グッと唇を結んだところでセンターでのことが脳裏に過った。
ドッジボールで汗を流した後、子供たちは言っていた。
「嬉しかった」「ありがとう」「楽しかった」と。純粋でいて綺麗な感情だった。怜も無邪気な笑顔で「ありがとう」と言っていた。
どうしようもないほど落ちぶれた大人にも感謝の気持ちや喜びを伝えたのだ。智史と陽菜も一緒だ。同じくらいに素直で真っ直ぐだ。
「俺、パパに会えて嬉しいよ! 今日は一緒にいられるんだよね?」
「わたしも、とっても嬉しい! ねえ、パパは!?」
「っ……」
催促されても一司は言葉を詰まらせるばかりだった。
「……もしかしてパパ、嬉しくないの?」
次は智史が尋ねた。その瞳は不安そうに揺れていた。陽菜も同じで潤んだ瞳に寂しさを滲ませた。
(ああ、クソ……)
無理だ。無碍には出来ない。一司は二人の頭をそっと撫でた。
「……そんなわけねぇだろ……パパも、会えて嬉しいよ」
絞り出した感情を声にした。
その声は情けないほどに震えていたが、一司自身も驚くほど、自然に出た言葉だった。
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