※戸惑う再会

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 こうして、意外な形で二人の子供と再会したわけだが、複雑な心境はそう簡単には変わらない。この後、一司は葛藤しながらも父親として振舞った。  特に外出はせず、昼は母の手料理を全員で食べた。  その後は庭でボール遊びや鬼ごっこをした。いつもなら一哉にベッタリな二人も、この日ばかりは一司の傍を片時も離れなかった。  幼稚園の出来事や、友達の話。好きなアニメのキャラクターなどを嬉しそうに語ってくる。一司はそんな話を、半分は適当に相槌を打ち、もう半分はちゃんと耳を傾けて反応を返した。離婚前からは考えもつかない姿だ。以前の自分なら話を聞く姿勢すら見せてこなかった。不思議なもので、今日は嫌な気分にもならなかった。それどころが、成長した我が子の姿に喜びすら感じていた。  これは父性だ。人間らしい一面が自分にもあったのかと、一司は自己の変化に驚いていた。 (これはきっと……)  仕事が影響している。  子供という存在を嫌でも知った。虐待という悲惨な現実も目の当たりにした。心を揺さ振った理由はそれだ。本質のところでは、まだ自分は何も変わっていないだろう。戸惑いばかりが先走るなか、一司はもう一つ気付いた。智史と陽菜がセンターの子供たちと同じ瞳の輝きをしているという事だ。 (ガキって、こんなにも綺麗な()してんだな……)  濁りなど一切ない澄んだ色だ。一司は二人の瞳を心に刻んだ。  面会時間はあっという間に過ぎた。午後七時までが約束の時間だ。帰り際、二人は口を揃えて一司に願った。 「パパ、来月も絶対会ってね。絶対だよ!」と。 「……ああ、考えておくよ」  イエスともノーとも言えない。これが精一杯の返事だった。父の運転で倉林家に帰っていく子供たちを、一司は静かな笑顔で見送った。
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