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「やん、痛い!」
「てめぇ、どうしてくれるんだよ……下着がびしょびしょじゃねーか」
雄欲を煽り、行為に乗っておきながらも責任転嫁した。そうでもしないと平常心が保てない。
「なによぉ……かずちゃんだって満更じゃなかったくせにぃ」
文句をたれながら、神谷はロッカーへの扉を開いた。何かを探しているようだ。
「おい、そろそろ店にまで呼びつけた理由を話せよ」
本題を求めて大きな背中へと問いかけた。振り返った神谷は無言で微笑んでいた。手にはラッピングされた小さな箱があった。彼はそれを一司へと差し出した。
「なんだよこれ……?」
「開けてみて。かずちゃんに似合うと思うの」
どうやらプレゼントのようだ。一司は躊躇いがちにそれを受け取り、包みを解いた。中からはケースが出てきた。開くとシルバー色のネクタイピンがあった。シンプルではあるがブランドロゴが洒落ている。一司好みのデザインだった。
「来月、店から発売する予定の新作のタイピンなの。かずちゃんの名前も入れてあるのよ」
「ちょっと待てよ……俺、欲しいなんて、一言も言ってねーし。だいたいこんな高級な物、受け取れねーよ」
ここのブランドは芸能人にも人気で、値が張ることも知っている。おそらくこのタイピンも普通に万札が飛ぶ。しかも名前入りだ。さすがに申し訳ない。一司は閉じたケースを突き返した。
「嘘……かずちゃんも人並みに遠慮するのね」
意外だと言いたいのか。神谷はきょとんとした
「当たり前だろ。俺は謙虚と遠慮の塊だ!」
「冗談もここまできたら笑えないけど、とにかく受け取って欲しいの。いつもお仕事頑張ってるかずちゃんに、ピッタリだと思ったのよ」
神谷は返されたケースを頑なに受け取らない。
「いや、でも……」
「お願い。でないと、あたし泣いちゃう……」
神谷の瞳が潤んだ。何が何でもプレゼントしたいようだ。
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