複雑な素直

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 外は曇り空が広がっていた。東の方角に黒く不気味な雲が見える。 (そういえば、午後から天気が崩れるって情報だったな……)  ネットで見た天気予報を思い出した。どんよりとした空模様を眺めたあと、一司は広場へと視線を戻した。ボールの蹴る音が聞こえる。数名の子供たちがサッカーをしていた。 「大槻さん、サッカーは得意?」  隣に立つ牧野が顔を覗いてくる。やはりそう来たか。一司は断る方向へと話を持っていく。 「でも、もうすぐ雨が降りそうですよ」 「まだ降ってないじゃない」  無問題だと言わんばかりに流された。 (話にならねーじゃねーか……)  うんざりとしてスラックスに両手を突っ込んだ時だ。 「あ! この前のお兄ちゃんだ!」 「来てくれたんだ!」 「やったあ! サッカーしようぜ」  一司の存在に気付いた子供たちが、一斉に駆け寄ってきた。その中の一人に怜もいた。 「オッサンまた来たのかよ。暇だな~」  会った途端に、お決まりの憎まれ口だ。一司は目くじらを立てた。 「オッサン言うな。それとな、暇じゃねーよ!」 「ところでオッサン、サッカー出来んのかよ?」  怜はリフティングを得意げに披露した。  上手い。小さな身体をしていながら、器用にボールを操っている。意外な姿に一司は瞬きを繰り返したあと、過去の栄光を明かした。 「俺はな、中高とサッカー部だったんだ。しかもレギュラーだ。色んな試合にも出たぜ!」  これ以上、大人を馬鹿にするなと、ふんぞり返った。 「へぇ、凄い! じゃあ教えてくれよ。俺、もっと上手くなりたいんだ!」  怜の瞳が大きく輝いた。 「……え?」  真っ直ぐな要求に一司は、たじろいだ。
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