複雑な素直

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「へぇ、いるんだ。どんな奴?」  滅多に聞けないマスターの話だ。興味が高まった。 「どんな人と言われても……」  唸りながら彼は腕を組んだ。相手の姿を思い浮かべているのだろう。一司は早く言えよといわんばかりの眼差しを送った。 「……そうですね。素直じゃないし、口も悪ければ性格もなかなか悪い。おまけに自分勝手……そんなところでしょうか?」  口から出たのは性悪どころじゃない。最低な人物像だった。 「なんだよ、そいつ。最悪じゃねぇか。マスターもよくそんな奴に惚れたもんだな」  かなり趣味が悪い。一司は呆れ返った。 「自分でもそう思いますよ。でもね……可愛いんです」 「見た目が?」  結局は容姿かと質問を返した。 「見た目は、どちらかと言えば綺麗……でしょうかねぇ」 「じゃあ何処が可愛いんだよ?」  話を聞くだけでも魅力は皆無だ。 「ギャップ……でしょうか?」 「ギャップ?」  首を傾げたあと、グラスを口に運んだ。 「はい……たまに見せる素直さや、いじらしさがいいんです。それに根は悪い人じゃない。捻くれた根性も逆に可愛く見えてくるものですよ」   どうやらかなり惚れ込んでいるようだ。マスターは優しい顔をしていた。どんな相手でも好きなるのは個人の自由だ。一司はへえと、頷いた。 「じゃあ、俺は陰ながらマスターの色恋を応援させてもらうよ。本音を言えば、もっといい奴がいると思うけどな」 「ははっ、どうも」  一司のエールをマスターは笑って受け止めた。
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