複雑な素直

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 一司が行ったのは立派な犯罪だ。簡単に許される話ではない。それでも神谷は放っておけなかった。再会してからというものの、一司のことがずっと頭から離れなかった。  二度目の口づけも、同僚に酷い言葉を浴びせられて、一人で涙を流す姿に胸を撃ち抜かれたからだ。悲しみながらも必死に意地を張り、プライドを守ろうとする姿に、神谷の心が揺さ振られたのだ。しかも……。 (あたしにキスされて勃たれたら……抑えもきかなくなるわよ)  まさかの現象だった。神谷の知る一司はストレートだ。離婚したとはいえ、元妻との間には子供が二人いたと聞く。そんな彼が神谷からの口づけに性的な反応を見せたのだ。起立したこと自体、久し振りで、不全を患っていると真っ赤な顔をして告白してきた。その上、神谷にだけしか昂らないと言う。理性など保てるはずもなかった。  このまま彼を滅茶苦茶に抱いて、雄欲を突き刺そう。同意なんて行為に傾れ込めば、快感で誤魔化せる。そう意気込んで、ホテルへと連れ込んだが、未遂に終わった。人外レベルの神谷の屹立に一司は怯え、泣き出してしまったのだ。 (あの時のかずちゃんも、最高に可愛かったわ……)  夜道で一人悦った。何を言われても愛おしく感じる。  今はまだ触れ合う関係だが、神谷には自信があった。絶対に一司を堕として、身体も心も手に入れる。  早くあのいじらしい蕾を生で味わいたい。あれだけゲイが大嫌いだと嫌悪していた彼だが、今ではもう、後孔の刺激がなければ物足りない様子だ。もともと素質があっただけに開発は充分だ。 (早く素直になればいいのに……)  いつまで強がるつもりだろうか。それも可愛いが、毎回、美味しい餌を前にして我慢するのは結構辛い。  一司の前では余裕ぶっておきながらも、神谷は欲を抑えるのに必死なのだ。力づくで抱こうと思えば出来る。けれど、それはしない。一司自ら神谷を求め、想いを告白するまで待つと決めているからだ。
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