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近づける、こと
この感情に気づいてからずっと、俺は優利に近づけないでいる。
「おい、柴山景斗」
びゅっと吹いた夜風とともに、低い声が俺を呼んだ。
首回りがひんやりした。
声がした右隣を向く。建物の入口前、俺が寄りかかっていないほうのガラスドアが開いている。そこに立つ、長めの髪をざっくり後ろで結んだ渋い顔の男性がこっちを見ていた。
俺も指導を受けたことがある腕利きの殺陣師、JINさんだ。
「報告受けて来てみれば……何してるんだ、そんなところで」
「お疲れ様で――」
「いい、そんなのは。中入れ」
「え、でも……俺はただの待ち合わせだし、受講者に迷惑かけたく――」
「外にいられるほうが迷惑なんだよ。追っかけに見つかったりでもしたらどうする。今日誰が来てるかわかってるよな?」
当然。だからここにいる。
JINさんは黙ってる俺をじっと見ると、ほら、と促すように身体を引いた。
「……あいつらだけじゃない。お前も顔が売れてきてるんだから、もう少し自覚持て」
抵抗する理由もなく、俺は中に入った。
JINさんの後をついて廊下を歩いてると、ふと聞かれた。
「待ち合わせって、クリスマスイブの夜にか?」
怪訝そうな表情が胸に刺さる。
「……別に、特別な意味は……ただ、劇団の稽古場が近いので……せっかくだから」
あいつに、会いに……
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