近づける、こと

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 駅の改札をくぐり、電車に乗るうちに会話は止まった。  不自然に静かな車両の中、俺は近くに立つ優利の様子を伺いながら三月の観劇を思い返した。  二人芝居。  優利、もう一人と、他に誰もいない板の上。  特別何かを刺激させる要素ではないはずだった。  だけど。  舞台上で笑って、楽しんで、時に弱音をこぼし合いながら、お互いだけを意識した交流を重ねる二人を見て、俺は……  役とか、芝居とか、関係なかった。  台詞の一つひとつに優利から言葉をもらい、俺の知らない笑顔や照れた表情を向けられて、当然のように自分も返していく紗姫ちゃんを見て。  窒息しそうなくらいの強烈な嫉妬が湧いてきた。  どうして、あいつの視線や言葉の先にいるのが彼女なんだ、と。  終演後に行った楽屋挨拶の時も、楽しそうに話をする二人を見て苛立ちを感じた。  自分も同じように二人芝居をしたいと思った。  その後も、いつもいつも、今優利は何をしてるだろうかと、気にするようになった。誰と話し、誰に同じ笑顔を見せているのか、知りたくなった。  名前を呼ばれると胸が高鳴ることにも気づいた。  理由は後からわかって、今は意識しない日はない。
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