触れられる、こと

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触れられる、こと

 観に来てた。  客席にいるのも見えた。  そのせいか、初日の緊張もいつも以上に強かった気がする。  昼の回の終演後、俺はさっさと切り上げて楽屋に戻った。  ……挨拶くらいには来てくれるはずだから。  自分の鏡前に行き、汚したくなくて鞄に仕舞っていた深緑色のマフラーを取り出す。  もったいなくて使えてなかったけど、一昨日、優利(ゆうり)から「観に行く」と聞いてから、今日は持ってくると決めてた。  綺麗にたたみ直して、椅子の背もたれにかける。  入口前に移動して外の様子を見てると、廊下の奥に優利が現れた。  でも一人じゃない。  紗姫(さき)ちゃんが一緒にいた。
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