近づける、こと

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 スタジオに入ると、フロアの中心で同世代の俳優が二人、高速な立ち回りを披露していた。  俺が会いに来た優利は小道具のナイフを右手に、装飾付きの短剣を持った相手を追い込むように一手、一手と技を繰り出してた。  その姿に息を呑む。  半袖の稽古着からのぞく腕が前より少し逞しくなった気がする。筋肉がつきやすい体質なんだと思う。182cmある身体の動きはキレが鋭く、力強いのに、美しい。上半身だけじゃなく、足の置き方や腰の構えとかからも身についてる技術の高さがわかる。同い年なのに、自信と安定感が違う。  真っ黒な髪はうなじと額が見えるくらい短く切ってあって、精悍な顔の整った眉と目元が真剣な表情を作る。硬派な印象は変わらずだ。ユウリ、なんて中性的な名前をしてるくせに、腹が立つくらい男らしい。  相手の彼は背格好が平均的で、見た目も優男風で雰囲気が柔らかい。自分で言うのもなんだけど……俺、みたいに。だけど、未熟な俺と違って彼には見る者誰でもを惹きつける絶対的な華がある。  二人は来年の春に、ほとんどダブル主演と言える役同士の共演が控えてる。  そのことは考えないようにして、繰り広げられる殺陣をじっと眺めた。
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