エクストリーム・お掃除 第21回全国大会 実況中継

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『エクストリーム・お掃除、第21回全国大会。  午前の部が終わり一度インターバルを挟んでの中継再開ですが、未だ歓声冷めやらぬというところです。  改めまして、実況は私、空吹(からぶき)総司(そうじ)。  解説には平成20年より10年連続年間総合チャンピオンに君臨し続けたレジェンド、清霜(せいそう)拓海(たくみ)さんをお迎えし、引き続きお送り致します』 『午後もよろしくお願いします』 『さて、清霜さん。午前の部を終えて、既に六割の参加者が競技を終了しています。  ここで改めて、エクストリーム・お掃除についてお聞かせ頂けますか』 『そうですね。こうして中継が行われるまでになった競技ですが、残念ながらまだまだ認知度は低い。  改めてどのような競技か説明させていただければと思います』 『それでは、よろしくおねがいします』 『まずエクストリームという意味について抑えて行きたいですね。  海中や山頂、スカイダイビングの最中などにアイロンをかける競技に引きずられているせいか、苛酷な環境が必須と捉えられがちです。  ですが実際には苛酷さが必須ではないんです。  エクストリーム。過激さを競技が冠する意味は何か。  それは心躍る瞬間だと、僕は思っています。  皆に敵わないと思わせる、常識を超えたスタイリッシュでクールなトリック。  競技者はその達成感に歓喜し、観客はその目撃者になる瞬間に胸を高鳴らせ期待している。  心躍る瞬間に熱狂する、虜にする魅力を持つ競技にこそ、エクストリームという名前が付いていると思っています。  みんな格好いいものを見たいんだ。そして僕たちはそれを実現したいし、人々を魅せたいと思っている』 『このエクストリーム・お掃除にもやはり心躍る瞬間がある、ということですね』 『もちろんです。  僕たちには、洗練された所作、最適化された動作、統制の取れた行動にある種の美しさを感じる機能が備わっている。  それを見るだけで、凄いと思い、クールに映り、魅せられる。それを競う競技や、それを見せる演出は既に数多く存在しているでしょう。  それは確かにお掃除にも宿っているんです。  例えば、そうですね--空吹さんは窓清掃の作業を見たことがありますか?』 『窓の清掃というと、ワイパーのようなものでガラス面を拭いていく作業を思い浮かべますが』 『その窓清掃です。  窓清掃ではウォッシャーで汚れを浮かし、スクイジーで汚れを拭い落として行きます。先程、空吹さんがワイパーと呼んだのがスクイジーですね。  スクイジーの掛け方に明確な決まりはありません。上から下へ、右から左へ、決まった間隔で動かしていくだけでも窓の清掃はできる。  だけど作業速度と仕上がりを突き詰めていくと、一つの動きに行き着く。  ひとたびガラス面にスクイジーを当てた後は、窓から離すことなく汚れを拭い切る。  熟練した清掃員の動きに淀みは無く、一筆書きのようにガラス一面を拭う流れには無駄がない。  スクイジーとウォッシャーを巧みに踊らせる姿に、その汚れの捌き方に、思わず見入ってしまう』 『つまり、この洗練された清掃動作で魅せることがエクストリーム・お掃除という競技の本質ということでしょうか』 『いえ、残念ながらそれだけでは駄目なんです。合理的なお掃除は美しいけれど、万人を魅せる技ではない。  魅せるための技術はやはり別の所にあるんですよ。  過去にお掃除を取り込んだパフォーマンスをする清掃用品の広告が打たれたことがあります。  布巾でジャグリングをして、その合間にテーブルを拭く動作を入れてみたり。あるいは、踏んだ雑巾で床面を滑り、汚れを拭ってステップの軌跡を描いてみたり。  クールなトリック、スタイリッシュなムーブを取り込んだそれは、見る人を魅了するために作られたものでした』 『エクストリーム・お掃除が広告に使われた、というお話でしょうか』 『いいえ、違うんです。あの広告には決定的に欠けていた物があります。これがなくてはエクストリーム・お掃除という競技は成り立たない』 『欠けているもの、ですか。それは何でしょうか』 『あの広告では一切掃除をしていないんです。  テーブルを拭う動作をするが、撫でるだけではテーブルの汚れは落ちない。ステップの軌跡を描いても、床の汚れを落とし切るための方針が見えない。  あれではお掃除とはとても呼べない』 『なるほど。清掃という行為は前提にあって、その上で魅せる必要があるわけですね』 『その通りです。  魅せるだけではお掃除ではなく、お掃除するだけでは誰しもを魅せるには足りない。  きちんとお掃除を完了するまでに、どれだけ人を魅せられるか。  エクストリーム・お掃除はそれを実演する競技です』 『ありがとうございます。清掃に関連する競技というとアーバン・ハウスワークも一般的には浮かびますが--』 『他の競技について悪く言いたい訳ではないですが、アーバン・ハウスワークなんて路上で掃除機をかけているだけです。シュールではあるけど、クールじゃない。  あれじゃ、僕たちの心は躍らない。何より路上をお掃除するのに、家庭用の掃除機なんて不適切極まりない』 『……なるほど。二つの競技には、明確な違いが存在している訳ですね』 『はい。全く別の競技と考えてください』
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