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「….…お母さん、何してるの」
「あら、今日は早いじゃない。うーん、一応、大掃除?」
「そんなんいつもやらないじゃん」
「うっ。まぁ、そうなんだけどね。お隣の田中さんも昨日、門から玄関くらいは綺麗にしてたし、たまにはいいかと」
休みの日にしては珍しく早起きをしてきた上の娘に話しながら、キッチンから持ってきた熱湯を地面に撒いていく。
「あ、雪がとけちゃった」
「凍ってからだと滑るからね。今のうちにこの辺りと、ガレージあたりまでは溶かしておくわ。あ、お湯撒く時は危ないから近寄らないで」
「はぁい」
何かを見つけたのか、娘は玄関脇の地面にしゃがみ込んだ。
今のうちにと、ガレージの方へもお湯をかけていった。
「お母さん」
「何、美津恵?」
「なんか、アリのすあな? からめっちゃアリが出てくる」
「あらそう? その辺はさっきお湯を撒いたから、冬眠してたのでも起こしちゃったんじゃない?」
さして興味もなさそうに返事した。
わたしは虫が好きじゃないし、何ならアリなんか目障りだから。
ウチの庭から出てってくれるのなら、幸いだ。
「玄関の雪も虫も掃除できたんなら、年末に早起きした甲斐もあったわ。ほら寒いからもう戻ろ? あったかい紅茶でも淹れてあったまりましょ」
「きのう買ってきてくれたクッキーは!?」
「いいよ、開けよう。年末は特別に、朝からお菓子を食べてもよしとします!」
「やったー! じゃあ紗夜子も起こしてくる〜」
わたしと娘は、笑いながら暖かい屋内へと戻る。
ーーーそんな姿を後ろからじっと見ている、「なにものか」がいるとも知らずに。
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