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「なま姉、なま姉ッッッ」 「…………」 「ーーーあれなに、あのでっかいの? 敵? 敵なの? ねぇ、なんであたしたちの巣を襲ってるの???」 「…………」 「ねぇ! なま姉ったら!」 「あたしたち正解だったね。『たまたま』外に出てたから、助かった」 ーーー近くの草陰に隠れて。 あたしと妹のさやは、その『馬鹿でかい生き物』が去っていくのをやり過ごした。 「アンタはまだ見たことなかったか。あれは『人間』。気まぐれにわたしたちを踏み潰したり、巣を壊したりするの。そう、紛れもない敵」 だけど。 流石に、冬の間に入り口を閉じて隠れている巣を襲われるという予想はしてなかった。 否。あの人間は、高音の水で周りの雪を溶かしていた。 それが、あたしたちが外に出たことで開いてしまった巣穴に流れ込んだだけなのかもしれない。 「行こう」 人間たちの足音が消えて、すぐにあたしは妹の手を引いて歩き出した。 「行くって、どこへ」 「あたしたちの巣は全滅はしてない。裏口があるから、ある程度の仲間たちはそっちから逃げられたはずだと思う。勿論、お母様も」 「みつ姉ちゃんたちは?!」 「…………あの子は出入り口の真下だったと思うよ」 言外に諦めろという圧を込めて言うと、妹はすすり泣きを始めた。 その手をぐいぐい引いて歩き出す。あたしの記憶が正しければ、生き残った家族たちはこっち側の地上に出てきているはず。 「グズグズしてる暇はないから、さっさと泣き止んで。巣に流れ込んだ水の温度はすぐ下がるから、崩れた方を掘り返さなきゃいけない。水没してないこっち側の部屋はまだ使えるはずだしね。アンタも一応働きアリなんだから、そんくらいの役目は果たしな」 「……いつもサボってるなま姉に言われたくない」 「何を言ってるの? こういう時のためにあたしたち『怠け者のサボりアリ』がいるんじゃないの」 近くにいた、裏口から這い出してきたらしき家族に集合の合図をする。 ーーーこの世界では、家族の一部がいなくなることなど日常茶飯時。 『お母様』たる女王アリが姉妹を産み続ける限り、あたしたちの巣の日常は続いていく。 「ーーーさぁ、絶好の掃除日和だよ。まずは水没した部屋からの泥水の掻き出し! 始めるよ!」 長い間サボり続けて、鈍った手足をパンパンと叩いて。 わたしは心機一転、働きアリへと生まれ変わる。 ーーー初仕事は、今は亡き姉妹が埋まってしまった巣の『お掃除』、だった。
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