殺人自動掃除機バリクリーン

6/6
前へ
/6ページ
次へ
さっき舞い散った黒い砂嵐が母の体を覆いつくしてたのだ。    「大丈夫すぐに払ってやる!」    父はその砂嵐をはらおうとするがまるで意味がなかった。父の張り手は、空を切ってばかりで砂嵐はなくならなかった。それどころかどこからどこからともなく砂が集まってきてより濃い砂嵐になって母に纏わりつく。    「あなた苦しい。たすけて。くち、くちに砂が……」    父は飛び付き母の鼻と口を手で覆い被せた。もがく母。父は砂を絶対に入れまいと必死に抑える。やがて父の腕に捕まれた母の顔から下はだらしなくたれさがるだけの肉の塊と化していた。だが父は、砂嵐から逃げる事に必死で気づいていない。    「とうさん!母さんが……」    そうマサキ兄さんが言葉にしたとき母の首から下の胴体が溶けたアイスのように床にぼとりと落ちた。その肉片は床に落ちると弾けるようにして黒い砂に変わり父の周りで渦巻く嵐の中に加わっていく。その事に気づいた父は、持っていた母の顔を放り投げた。ボトッと鈍い音をたて床を転げていく。父は、ひぃぃと言って俺達をおいて玄関に向かって走った。が、それは既に手遅れだった。父の足が砂に代わり床に盛大に転ぶと床一面に砂バケツをぶちまけたように黒い砂が一気に飛散した。    「マサキ兄ちゃん。なにこれ」    次は、タクヤの周りに砂嵐が巻き起こっていた。    俺はすぐにその場から離れたがマサキ兄さんは違った。かかんにその砂嵐の中突っ込んで行った。    「タクヤ!お兄ちゃんがなんとかしたる」    マサキはタクヤを庇うようにして覆い被さった。砂嵐は二人りごと覆い渦巻くとすぐに二人の姿が見えなくなった。    黒い嵐が無くなったときには、二人の姿は跡形もなく消え、その場所の床には人形にぽっかりと穴が空いていた。    カーテンの隙間から一直線の光の線が入り込む。気がつけば朝だった。    これで母のヒステリックな声も、気持ち悪い親父の顔も、兄と弟の気持ち悪いシスコンも見ないですむ。    俺は無性に外の景色が気になりカーテンを開けた。    なんだよこれ。    外は何もなかった。ビルもマンションも何もかもなくなってしまったのだ。巨大なバリクリーンがビルを喰らい小さなバリクリーンを大量に放出しそれが大きなハリケーンを作りあらゆるものを飲み込んでいた。    今何が起きているのか知りたくて、テレビをつけると白髪交じりの白衣を着た研究者らしき人物が数人白い旗を掲げ何かを叫んでいた。    『人類絶滅から救うために、人類削減計画を実行した。もう間もなくこの世界は善良な男女の子供を残して全て死に絶える。そして善良で清らかな人間だけが生き残る新世界が誕生するのだ!ガハハハハ──。』    男が巨大なバリクリーンに吸い込まれると、テレビの映像はそこで消えスクリーンの中はザーと砂嵐でいっぱいになる。    クズ人間のいない新世界……    もう一度窓の外を見ると、空は清々しいほどに青く晴れ渡っていた。    「俺みたいな善良な人間だけの世界……」    「いい!最高じゃないか!」    「リョウタ……」    「え、」    後ろを振り向くと消えたはずのマサキ兄さんとタクヤがいた。    「死んだんじゃ……」    「なぜかわからないけど、俺たち下の階に落ちて助かったんだ。それより……リョウタその手……どうしたんだ」    俺は右手を見た。それはひにくにも、とても綺麗だと思った。黒いダイヤが太陽の光に照されキラキラと星屑のように空に舞っていく。    下の駐車場には、近所の子供達が集まってきていた。    汚い大人は消える、か。ははは。俺が一番汚い人間じゃねぇかよ。    二人を見ると消え行く俺に涙を流していた。    どんだけ善人なんだよお前らは……    そして俺の体は残すところ無く砂となり空に舞っていった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加