ideal

2/2
前へ
/4ページ
次へ
 私には交際中の彼がいる。彼は週に3〜4日は、仕事終わりに私の家へ来てくれる。  私が彼の家へ行ってもいいところだが、冬の間は日が暮れるのが早いため、女性が一人で出歩くのは危ないという理由で、彼が私の家へ来ることがほとんどだ。  泊まっていく日もあれば、彼の職場が私の家から遠いこともあり、終電で帰る日もある。 「今日も泊まっていきたかったんだけど、明日いつもよりも早く仕事に出なきゃだめでさ。今日は終電で帰るね」  彼は帰り際、玄関でそう告げると「また明日来るよ」と私の頭をポンポンと撫でた。  こんな日は、朝まで一緒に居られない寂しさはもちろんある。  しかし、段々と遠のいていく彼の姿を、カーテンを開けて窓から見つめる時間が実は好きだったりする。  今日は夕方にドカ雪となったが、その後は積もるほどの雪は降らなかったらしい。  路地には三足分の足あとが残っていた。  一つは彼が残して行った真新しい足あと。  残りの二つは、その彼の足あととは逆方向に続いている。  きっと二つの足あとのうち、一つは彼のものに違いない。  成人男性の歩幅のものが一つと、その1.5倍ほどの歩幅のものが残っている。  「今から急いで行くね」と電話で言っていたこともあり、歩幅の広い方が彼のものだと私は確信した。  仕事終わりに走って私の家へ向かってくれていたんだと思うと嬉しく、幸せな気持ちで胸が満たされた。    どうかこのままずっと、雪が降らなければいいのに。  そうすればあの足あとをいつまでも眺めていられるのに、と仕方のないことを考えながらカーテンを閉じた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加