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手から提げたビニール袋から、おそらくはコンビニで購入したカップ麺が揺れているのか、かさかさと乾いた音が聞こえている。僕はビニール袋を利き手である左手に持ち替え、なるべく袋を揺らさないように、夕暮れ時の足元が暗い中を歩き出した。
周囲の景色はいつもとなんら変わることはなく、まるで僕が歩くそのタイミングに合わせて、何者かが背景であるパネルを移動させているかのようだ。
季節の移り変わりなど無視した、通年葉を茂らせている街路樹、毎日毎日懲りずに接客を続ける呼び込み、ピンクや黄色など、様々な蛍光色を携え、眩く輝く電光掲示板。
そして―、僕を含めた人の群れ。
そうだ、僕に合わせてパネルが移動しているのではない。僕もまた、背景と言う名のパネルの一部に過ぎず、きっと主人公と呼ばれる何者かに合わせて僕たち背景は動いているに違いない。
ただでさえ身長が成人男性の平均のそれより劣るのに、普段から猫背で、目線は常に下を向いている僕は、きっと人混みの中で最も目立たないに相違ない。普段から自信はないが、雑踏に紛れれば、靄や霞のような判然としない存在になり得る自信だけはある。
身長に関して、それなりにコンプレックスを抱えてはいるが、それを口や表情に表したことは一切ない。
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