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14
赤茶色のテーブルにノートパソコンを立ち上げ、300円もしないアイスコーヒーを啜る。時代の流れと共に禁煙化が進んだ近所のカフェで、俺はソファー席に背を預けていた。
あの夜、三浦と繋がった俺は玄関で果てることなく、ベッドの上で彼女を3度ばかり絶頂へと誘った。大袈裟に体をびくんと跳ねさせていたが、俺は頂までかなりの時間を要した。
まだ家には戻っていない。
パソコンの画面には新作のプロットが白を映し出されていた。まだ何のストーリーも出来上がっていない。
俺は堪らずに席を立った。昨日から着替えていないジーンズのポケットからタバコを抜いて、喫煙スペースの引き戸を開ける。中には誰もいなかった。
網目の蓋を被る細長い灰皿の前に立ち、フィルターを噛んでから火をつける。オレンジ色の明かりが灯って煙が舞う。ふーと息を吐く。
こんな状況で新作のアイデアが浮かぶはずもなかった。
ため息と共に紫煙を吐き捨てる。よく眠れなかったために瞼が固まっている感覚があった。解すように手の甲で目を擦る。数回瞬きを繰り返す。
「あああああああああああああ…」
まだあの唸り声が頭の中で鳴り響いているような感じがして、俺は首を横に振った。
溜まった滓を落とそうとして視線を網目に向ける。
突然灰皿の底から大量の髪の毛が登り、細かい網を抜けて湯気のように飛び出す。俺は息を飲んで短くなったタバコを落としてしまった。
壁にぶつかる。衝撃で瞑った目を開けると、髪の毛は無くなっていた。
俺は壁にもたれながら、精神状態が何かに蝕まれているような感覚を味わっていた。
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