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閉め切った寝室の中は、蒸せ返るような熱気に包まれていた。汗と熱が空間を舞っている。俺はベッドの上で仰向けになった三浦だけを見つめながら、腰を前に突き出し続けていた。三浦は衝撃で顔を歪ませながら、高らかに啼いている。 感覚だけは正常だった。 粘り気のある狭い肉壁の中に捻じ込む感覚は、前後に動かす度に腰回りを刺激する。徐々に下腹部から何かが湧き上がってくる。びりびりと痺れるような、絶頂に至る前の妙な痒さまである。 しかし、不安だけは消えてくれなかった。 ベッドの下から伸びる青白い腕、窓とカーテンの隙間から睨みつける白い目、カフェの灰皿から立ち昇った髪の毛、三浦の脚の隙間からこちらを睨む女の霊。あらゆる不安に塗れて萎れてしまいそうな肉の棒を、彼女の肉の壁に無理やり擦り付け、どうにか正常を保とうとしていた。 「あっ、いきそう。」 両足を俺の腰に絡め、がっしりと固定する。豊満な乳房が上下に揺れていた。俺は不安を振り払うように腰の速度を上げた。 「俺も、いく。」 ほとんど同時に絶頂を迎えた。腰の周りにあった熱い靄のようなものが全て消えて、人間が空っぽになる瞬間。やたらと薄いゴムの内側で、吐き出した熱が溜まった。 ゆっくりと引き抜いて避妊具を剥ぐ。重力に負けるゴムを縛ってベッドの縁の上に置いて、俺は三浦の隣に倒れ込んだ。 「今日、すごい激しかったね。」 「そうかな。まぁ、ね。こういう仕事してりゃストレスも溜まるし。」 一息ついて天井を眺める。もうあの低い唸り声は聞こえない。何故か遠い昔にあった出来事のようだった。まるで数年前に遭遇したようにーーーーー 「そうだ!」 俺は裸のままベッドから飛び起きた。彼女は驚いた表情でこちらを見ていたが、それでも構うことなく俺は寝室から飛び出した。リビングを抜けて廊下に入り、左手の扉を乱暴に開く。急いで書斎の照明をつけ、果てたばかりの体をリクライニングチェアに落とした。 あの異世界での出来事を描いてデビューしたのだ。ならばここ数日の出来事を新作の漫画のネタにすればいいじゃないか。アルコールでも取材でも、目を見張るほどの美人とのセックスでも不安を拭えないのなら、負の感情を全て原稿用紙にぶつけて全国に発信すればいい。 昼間は真っ白だったプロットが一瞬のうちに黒く染まり、ものの数分でストーリーが出来上がる。 俺はいつの間にか笑っていた。
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