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誰かの声が聞こえる。肌色の視界は、自分が目を瞑っているからだと悟った。恐る恐る目を開ける。そこには5人の男性の顔があった。 「大丈夫ですか?酔っ払っちゃった?」 警察官が3人、駅員の制服に身を包んだ男性が2人、俺を見下ろしている。その言葉を聞いて思わず飛び起きた。 「あ、あの、ここは。」 「大泉学園駅だよ。駅員さんから通報があってね、突然電車から飛び出して叫んでたって。」 辺りを見渡すと、駅のホームにあるベンチに俺は体を載せていた。体の上には鞄が置かれている。警察官が無線に何か連絡を入れている時、俺はふと気になって鞄の中身を確かめた。 ネタを書き留めるノートを開く。雄散社で没になったストーリーのプロットが描かれたページを捲って、真ん中のページで手を止める。俺は思わず呟いた。 「本当だったんだ…。」 間駅のホームで書き記した情報の箇条書きは、焦ったような字体で書かれている。確かに俺は間駅にいた。あの薄暗いホーム、改札を抜けて広々とした都会にいて、そしてあの家に入った。 俺は生き急ぐように駆け出した。背後から警察官が制止するように声をかけてきたものの、それでも止まることはなかった。 改札を抜けて駅から飛び出し、逸る気持ちを抑えられないまま夜道を駆け抜ける。アパートまで徒歩5分の道程に自宅があることに感謝しながら、俺は目に入ったアパートへ滑り込んだ。外階段を駆け上がって狭い廊下の奥に向かう。ポケットから抜いた鍵を震える手で挿し込み、勢いよく回す。爆発するように扉を開けて手も洗わず、俺は敷布団の前に置かれた机に向かった。 鞄の中身を全て空けてノートを開く。頭の中で様々なアイデアが掘り当てた源泉のように湧いては形になりそうだった。あの異世界であった出来事は全て俺のオリジナルだ。俺のオリジナリティーが詰まっているのだ。 気付けば走らせるペンは止まらなかった。
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