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私は、あなたのドッペルゲンガーです。
あなたとお会いできる日を、待っていました。
私は、あなたがどんな仕事をしているか、どこに住んでいるか、知っています。
そして今日、私はあなたに会いに行きます。
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ご周知のとおり、自分のドッペルゲンガーと出会うと大きな不幸がふりかかると言われています。俗説では死ぬとも言われていますが、それは少し言い過ぎです。
死ぬこともありますが、そこまではいかないケースも多くあります。
どうして、私がそんなことを知っているのかって?
簡単なことです。それは私自身が、ドッペルゲンガーを送り込むことを生業にしているのですから。
当然、それは誰にでもできることではありません。そう、私だけに可能なこと。そのために悪魔と契約した、私だけに。
数年前、私は東新宿の片隅に「ドッペルゲンガー派遣事務所」なる小さな事務所をひっそりと開きました。
事務所といっても、一見どこにでもある薄暗いマンションの一室です(そしてこの区画には、そんな怪しげな多様な業種の事務所が少なからずあるようです)。大仰な看板も出していませんし、ほとんど、その存在には誰も気づきません。
しかしどういうわけだか、どこかで人づてに聞いた情報をたよりに、時折客がここを訪れるのです。
ドッペルゲンガーを派遣してほしいと。
それは依頼人の身の回りにいる、消えていなくなってほしい人物を、きれいさっぱり消し去って「掃除」するため。
そう、これがこの事務所の仕事なのです。
一般にはもちろん知られていませんが、これは意外と悪くない方法です。なにしろ、ターゲットとなる人物を消し去るために、依頼人は自分の手を汚す必要はおろか、何もする必要はありません。
ターゲットは不幸なことにたまたま自分のドッペルゲンガーに出会い、ただ、消えていなくなる。表向きは少なくとも、それだけのことなのです。
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いちおう、お断りしておかなくてはなりません―
当事務所は、殺人罪を犯しているわけでも、人を拉致しているわけでもありません。
一例として、最近あったケースをご紹介しましょう。
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