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 上映されている映画は三つあって、妹がどれが好きか分からなかった。少なからず妹の本棚にあるような映画は今は上映されていなかった。あるとしたら来月だろうか。芥川賞受賞という大々的に取り上げられた映画が来月に一本上映される。そのときでも誘ってみようか。妹は喜ぶだろうな。僕はそんなに好きではないけれど、そういう趣向の映画もたまには見て良いかもしれない。その映画を見て妹の思考が覗けるのなら僕も嬉しいし。 「お兄ちゃんが決めて」  妹が重い息をつく。  三つの映画のうちの二つは洋画で、一つは邦画だった。生々しい心情が綴られているのは邦画で、アクションが好きなら洋画がいい。今の妹はなぜか落ち込んでいるから、アクションがいいかもしれない。それか濃厚なミステリ。僕は妹を見やり、虚ろな目で邦画を見ているのを見定める。でも、今、僕はミステリが見たい気分だった。 「じゃあ、お言葉に甘えて」  僕はミステリ映画を選択して、妹と二人で映画シアターに入場した。物語は複雑だった。絵画にまつわるお話で、キリストがどうのこうのと言って、バディでうろちょろして、最後にどんでん返し。そこで僕は盛り上がり、妹の様子を見ようとすぐさま顔を横に向けた。妹の頬に無機質な白い灯りが照り返っていた。目は真剣にスクリーンに吸い込まれている。脳内でマーカーを引いているのか、一秒たりとも顔を動かさない。ミステリを選択して良かったと、僕は安心した。  エンディングになり、テロップが画面に流れると、僕は小声で妹に良かったな、と心の奥から言った。その様子に、妹は満足そうに、口を横に伸ばしていた。  お兄ちゃんにしては、なかなか良かった。  そんな声が聞こえた気がした。
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